Mag-log in魔道士への位階の叙位と称号の授与に関する一切の事務を「聖皇から委任されている」という形をもって取り仕切るウァティカヌス聖皇国にあって、報道機関への対応を一任されているクーリアの「祝賀の主役であるカイト卿に疲れた状態で晩餐会に参席いただくのは申し訳ない」という配慮から、新聞社を始めとする報道機関の取材を回避できたカイトは、一旦ホテルへ戻って一息つく余裕を得た。
カイトとその護衛役であるセリカとステラ、事務方として随行する公使のスペイドが連れ立って宿泊するホテルへ戻ると、ホテルのロビーにカイトの戻りを待つ女性魔道士の姿があった。 金髪のショートボブで鼻梁はすっきりと通り、切れ長の目には濃い碧眼が光る女性は、漆黒の地に群青の縁取りがなされたラブリュス魔道士団の軍服を身に纏っていた。 すらりとしたスリムな体型で背も高い女性魔道士は、ホテルのエントランスからロビーへとカイトたちが入るのを視認するやすっくと立ち上がり、カイトに向かって深々と頭を下げた。「お帰りを、お待ちしておりました」
女性魔道士の落ち着いた低い声がカイトの耳に届く。
セリカとステラが身構える気配を背後に感じながらも、カイトは緊張を隠しつつ女性魔道士へ歩み寄った。「どちら様でしょうか」
女性魔道士の前まで近寄って問い掛けるカイトに対し、女性魔道士は品を感じさせる微笑を浮かべながら答えた。
「セナート帝国のラブリュス魔道士団で第六席次を預かるシルビア・ゲルツと申します」
「はじめまして。カイト・アナンです。それで、シルビア卿……俺をお待ちいただいていたようですが、どういったご用向きでしょうか?」敢えて肩書きは添えずにカイトが質問を返すと、すかさずシルビアはなめらかな口調で答えた。
「本日はカイト卿の位階の叙位と称号の授与を言祝ぎたく、突然の失礼を押して参上いたしました」
「そうですか……ご足労いただき、ありがとうございます」ほんの二年前に矛を交えた敵国であり、国交が戻った今も最も警戒すべき大陸の覇権国家セナート帝国。戦場においてはその大国の全権代理人となる筆頭魔道士団の第六席次が、急に目の前に現れたことへの警戒は解かずに、カイトは努めて穏便な姿勢で応じた。
隠しきれない緊張が顔に出ているカイトとは対照的に、落ち着き払った面持ちのシルビアは、カイトに向かって軽くうなずいてから自身の傍らに立つ役人らしき男へ目配せした。 セナート帝国の役人らしき男はおずおずとカイトへ近付くと、ビロード貼りの化粧箱をうやうやしくカイトへ向けて差し出した。「……これは、何でしょうか?」
カイトがシルビアへ端的に問うと、シルビアは微笑を崩さずに答えた。
「皇帝陛下からの祝いの品です。どうぞ、お納めください」
「シーマ陛下から、ですか……?」カイトは同行していた公使であるスペイドへ視線を向けた。
視線に気付いたスペイドは無言でカイトへ首肯を返した。受け取って問題ない。あるいは受け取っておかなければ失礼に当たる。外交の専門家である公使がそう判断したのだとカイトは理解した。「では、ありがたく頂戴します」
カイトが化粧箱を受け取ると、シルビアは付け加えるようにシーマの意向を伝えた。
「カイト卿には是非、普段から身に着けていただきたい。と陛下は申しておりました」
「……そうですか。では、そのように」カイトが一応の了承を口にすると、シルビアはカイトに向かって再び頭を下げてみせた。
「前後してしまいましたが、此度のカイト卿の聖魔道士、そして太魔範士の授与を心よりお祝い申し上げます」
「……ありがとうございます」顔を上げたシルビアが柔和な微笑みを浮かべる。
「ご多忙の中、貴重な時間を頂戴してしまいました。私はこれで失礼いたします」
「はい。シーマ陛下には、くれぐれもよろしくお伝えください」 「承りました。では、またお目にかかれる日を楽しみにしております」シルビアは品のいい微笑みを残して、役人と覚しき男を引き連れホテルを立ち去った。
穏やかな空気を纏いつつも隙の無いシルビアを警戒しつつその背中を見送ったセリカは、カイトへ近付いてから感想を口にした。「さすがはラブリュスの第六席次と言ったところでしょうか……隙など一切無かったですね。しかし、セナート帝国の情報網は世界一とも称されているとは言え、この動きは速すぎますね……」
セリカと同様にカイトのそばに寄ったステラが、推測を口にする。
「おそらく前もって用意していたのでしょう。太魔範士というのは後付けで、聖魔道士の授与に対して用意していた贈答品なんでしょうね」
「なるほど……さて、これはどうすれば……」
カイトが問い掛けるようにスペイドへ向かって目配せすると、スペイドは用意していた答えを口にした。
「問題ありません。国交の回復した国の君主からの贈答です。そのまま、カイト卿がお受け取りください」
「分かりました」カイトは首肯するとビロード貼りの化粧箱を開けた。
大きなルビーと思われる宝石が嵌め込まれた金の指輪が入っていた。 スペイドが「失礼いたします」とカイトが持つ小箱の中を覗き込んで、息を呑んだ。「どうかしましたか?」
カイトが訊くとスペイドは驚きを隠すように口元へと手をやりながら答えた。
「これは、おそらくピジョンブラッドかと思われます……しかも、十カラットは優にあります……」
「高価なものなんですか?」 「はい……ソブリン金貨で三千枚は下らないでしょう……」スペイドが口にした価値の大きさに、カイトは目を丸くした。
基本的に金本位制であるテルスにおいて、ソブリン金貨は世界基準となる貨幣だった。カイトがテルスに来てから得た感覚ではソブリン金貨一枚は元の世界の日本で云えば七万円ほどの価値を持っていた。 いま自分の手の上に、二億円以上の価値を持つ宝石が乗っている。「そんなに高価な贈答が、当たり前なんですか?」
自分の感覚が異世界の感覚とズレているのか確かめるためにカイトが訊くと、スペイドは首を横に振った。
「いえ……これは、どう考えても異例です」
「そうですか……」つぶやくように応じたカイトは、指輪に嵌め込まれたピジョンブラッドへ目を落とした。
仮想敵であるはずのセナート帝国の皇帝から贈られた、重さすら含んでいるかのような深みを持ちながらも鮮明に輝くピジョンブラッドの持つ意味をカイトは考えた。「受け取ってしまって、良かったんでしょうか……」
カイトがつぶやくと、スペイドは首肯を返した。
「はい。受け取らなければ失礼に当たります。今後、特にセナート帝国との外交的な場では必ず身に着けるよう、お願いいたします」
「……分かりました」指輪を手に取って左手の中指に着けてみたカイトは、指輪というより宝石の奇妙な重みを感じた。
ピジョンブラッドが自ら怪しく光ったように感じられて、カイトは自分が本来は小心であることを思い出した。 この異世界テルスに来てからと云うもの分不相応な力を得て、それに応じた扱いを受けている。自分はそれに対応できているのか。自分は変われているのか……。 カイトは自問したが、現時点で自分が持っている少ない事実の欠片だけでは、どう組み合わせても答えに辿り着ける気はしなかった。挙式から約半月が経過した7月2日。カイトとストーリアは新婚旅行へと出立した。 ミズガルズ王国にとって戦略的に重要なチョークポイントである、南西に位置するペアホース海峡と北東に位置するラペルーズ海峡への視察を兼ねたものだったが、半ば職務への随行となったことにストーリアが不平を漏らすことはなかった。 新郎新婦の護衛として随行したのは、セリカとピリカの二人だった。 ペアホース海峡へと向かう四人が乗り込んだのは、カイトとセリカにとっては見覚えのある客船だった。「このオリムパス号が、お二人の新婚旅行に花を添えることをお約束しましょう」 恰幅のいい船長は満面の笑みで、乗船したカイトへの歓待の意を示した。「シルバラード船長の船にまた乗れるなんて、俺は幸運ですね」 カイトも笑みで応じてシルバラードとの握手を交わした。「幸運なのは私どものほうですよ。カイト卿の乗船にクルーの意気も上がっております」「それはありがたいです。よろしくお願いします」 頭を下げるカイトの姿に触れたシルバラードが、ガハハと豪快に笑う。「腰が低いのは相変わらずのようですな。前回のように、クルーにも声を掛けてやってください。大喜びしますので」「はい。そうさせてもらいます」 オリムパス号は予定時刻の正午に鳴る時の鐘に汽笛を重ね、最初の目的地となるペアホース海峡に接するレガシィ領のレジアス港へ向けて出港した。 レガシィ領はミズガルズ王国の西端に位置しており、日本列島に似た地形であるミズガルズ列島の西、日本で言えば九州に相当するエリアだった。 御三家と呼ばれる有力貴族の中でも最大の勢力を誇るファリーナ家が治める地で、国土の西を広範囲に抑えるファリーナ家は鎮西家とも呼ばれていた。 ストーリアの生家であるカストリオタ家はファリーナ家の分家に当たり、その領地は日本で言えば四国に相当するエリアの一部だった。 レジアス港はミズガルズ王国にとって最重要に位置付けられる港湾であり、港湾都市であるレジアスは太古からアフラシア大陸との交易の中心であって、今の王室が成立する以前から外交を担っていた長い歴史を有する古都でもあった。 歴史的な背景もあって独立性の高い気風が根差しており、ファリーナ家はその気風を支える精神的な支柱としても機能していた。 王都のプログレ港を出港したオリムパス号が、レジアス港へ
晴れて夫婦となったカイトとストーリアが、結婚を機に延び延びとなっていた引っ越しを披露宴前日までに済ませた二人の新居へと戻ったのは、6月の太陽がすっかり沈んだ頃合いだった。 サイオン公爵としてサイオン領を拝領しているカイトではあったが、筆頭魔道士の首席魔道士としての職務を優先させ、王宮からほど近い位置にある王都の中でも有力な貴族の所有する屋敷の建ち並ぶエリアが二人の新居として選ばれた。 御三家の中でも王都に最も多くの土地を所有するガンディーニ家の所有していた屋敷を王室が買い取り、改装された屋敷は公爵でもあるカイトが構える屋敷としては最小限の大きさに抑えられた。 カイトの希望を宰相セルシオが聞き入れた結果として選ばれた小振りな屋敷は、ストーリアの希望もあってそこで働く使用人も最小限に抑えられた。 使用人の面談などはストーリアがすべて行い、それがストーリアにとってサイオン公爵夫人としての最初の仕事となった。 主である二人の帰宅を待っていた使用人たちにストーリアが本日の業務終了を告げてから、食堂へと移動したカイトとストーリアは互いにどこか落ち着かなかった。「なにか飲まれますか?」「ああ、そうだね……いや、自分で淹れるよ」「では、わたしは湯浴みしてまいります」「うん……」 食堂に残ったカイトは酔い醒ましのハーブティーを淹れることにした。 何か体を動かしていないと落ち着かない自分を少し情けなくも思ったが、初夜を前にして湯浴みしている妻を悠々と待っているだけの胆力など今の自分にはないとカイトは自認していた。 カイトが食堂でハーブティーを飲んでいると、湯浴みを終えたストーリアがシルクの寝衣で現れた。 頬をかすかに上気させたストーリアが、カイトの目にはやけに艶めかしく映った。「カイト様も湯浴みなさいますか?」「あ、ああ、うん。そうするよ……そうだ、ストーリアにお願いがあるんだけど」「なんでしょうか?」「俺に対しての敬語はもう無しにしない?」 カイトの提案を聞いたストーリアが右手の人差し指を頬にあて、少し迷った顔を作ってみせる。「そうですね。努力してみますが、すぐには難しいです」「そうか。うん、分かった。おいおいだね。じゃあ、湯浴みしてくるよ……あ、もう一つだけお願いがあって……」「なんでしょう?」「これからは寝るときに香水はつけないで欲
激動の聖暦1890年に、青葉の薫りを運ぶ爽やかな風が吹き抜ける6月の15日。 カイト・アナンとストーリア・カストリオタ両人の挙式がレザレクション大聖堂で執り行われた。 6月中の挙式という新郎新婦の希望を尊重した宰相セルシオの配慮により、ミズガルズ王国の筆頭魔道士団の首席魔道士であり王配直系の公爵でもあるカイトの結婚式としては、異例の短い準備と告知の期間による挙式と披露宴となった。 天候に恵まれた日曜日の大聖堂には、王国の英雄として人気を博すカイトの結婚を祝うため多くの人々が朝から詰めかけていた。 当初、カイトは結婚式を家族を中心とした小規模なものに出来ないかと希望を伝えてみたが、それはセルシオによって即座に却下された。「我が国の首席魔道士であり、対外的にも最重要人物である卿の挙式は、国家行事に等しいものです」 セルシオの言葉は真っ当なもので、ストーリアも同様の理解を示したため、カイトは宰相の決定を受け入れざるを得なかった。 カイトの結婚に際しては王家の中で一悶着もあった。 王配であるケンゾーの孫に当たるカイトの結婚相手は、タンドラ王太子の長女であるヴェルデ王女というのが半ば暗黙の了解として、王家全体の意向となっていたのが原因だった。 カイトをテルスへと召喚した術式を構築したヴェルデ本人も、自身がカイトの妻となるのは当然だと認識していた。 女王セルリアンとケンゾーの長子であるタンドラ王太子はカイトに対し、ヴェルデを正妻としてストーリアは公妾、いわゆる側室という形で迎え入れてはどうかと、二人きりでの面談の席を設けて提案をした。 カイトはその席での返答は保留し、ケンゾーとセルリアンにストーリアを本妻とするための協力を申し出た。 ケンゾーはすんなり快諾し、セルリアンも王太子側との関係を憂慮しつつも了承した。 タンドラ王太子も女王の意向とあっては表立っての反対は取れず、カイトがストーリアを本妻として迎え入れる結婚を阻止することを断念した。「あなたはストーリアを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」 大司教からの誓約の問い掛けに答えたカイトとストーリアは、観衆から送られる祝福の声に応えつつ儀装馬車へ乗り込み、披
「えっ……」 目を丸くするストーリアに、カイトがあたふたする自分を隠さずに声を掛ける。「驚くよね、そりゃ。ほんとに急で、ごめん」「はい……そうですね。驚いてしまいました」「だよね……」 カイトは続ける言葉を探した。 帰国する船上で幾度となく言葉を組み立てていたつもりだったが、実際に初めてのプロポーズとなるとシミュレーションした通りには言葉を続けることが出来なかった。 カイトの動揺を察して、先に口を開いたのはストーリアだった。「わたしで、よろしいんですね?」 カイトは強く大きな首肯を返すと、今回の遠征の間に考えていたことをストーリアへ率直に伝えようと決めた。「俺には何があっても帰らなきゃいけない場所が必要なんだって……思ったんだ。それが無いと俺は、いざって時に自分が背負ってる重責とか立場から逃げるっていう選択肢を、頭の片隅にキープし続けちゃうんだろうなって……。ストーリアと築く家庭を、俺の還るべき場所にさせて欲しい……身勝手な申し出なのは分かってる。でも今の俺には、ストーリア以外は考えられなかった」 カイトの飾らない本心から出る言葉を、まっすぐな目で受け留めていたストーリアは一度ゆっくりとまばたきしてから答えた。「わたしは離れませんよ? それでも、よろしいんですか?」「うん、もちろん。俺も離れる気はないよ」「……分かりました。カイト様の還る場所は、わたしがつくります」 快諾の返答を聞いて全身の緊張が一気に解けたカイトを、まっすぐに見つめたストーリアは、「ただし、一つだけ条件があります」 と真剣な表情で言葉を続けた。「条件……なにかな?」 肩をふたたび強張らせるカイトに向けて、ストーリアは真剣な眼差しのまま条件を告げた。「もし、わたしの身に何かあっても、自分と結婚したせいだと御自身を責めないでください。それが条件です」 ストーリアが口にした条件が、思いもしなかったものだったことにカイトは驚きを隠せなかった。「……ごめん。俺と結婚することで、ストーリアの身に危険が及ぶって可能性を、俺は深く考えられてなかった……」 自身の浅慮を詫びるカイトに向けて、ストーリアは微笑みかけた。「万が一、もしもの話です。カイト様はこの国の英雄であり、世界の英雄となられる存在。英雄たる方の妻が何も負うものが無いなんてことはあり得ません。ただ、わた
首席魔道士であるカイトを始めとする筆頭魔道士団トワゾンドール魔道士団に席を置く魔道士四名を乗せた大型汽船は、ほぼ予定通りの就航を終え、五月二日の昼過ぎにミズガルズ王国の王都プログレの港に錨を下ろした。 ベンガラから先行して出航した商船に連絡を頼んでいたこともあり、プログレの港にはノンノが出迎えに来ていた。ノンノから少し離れた位置には控えめに立つストーリアの姿もあった。 船から降りて約三ヶ月ぶりとなる本国の土を踏んだカイトのもとに、快活な笑みを浮かべたノンノが息を弾ませて駆け寄った。「お疲れ様! 長かったねえ」 ノンノはカイトへ声を掛けるやすぐにピリカへと視線を移した。「おかえりっ! カイト卿とは上手くいった?」 ノンノの軽い調子に合わせて、ピリカが大袈裟にがっかりとした表情を作ってみせる。「ううん。それが、残念ながら戦果なし」「ええー、三ヶ月も一緒だったのにぃ?」 演技口調で驚いてみせるノンノに、アルテッツァが微笑みかける。「変わらず元気そうで、安心したよ」「それは、こっちのセリフでしょ。疲れてると思って大袈裟な出迎えは却下しといたんだから」 ノンノが歯を見せる笑顔をみせながら答えると、アルテッツァが配慮への感謝を口にした。「それは、ありがたいな。確かに、思いのほか長期の任務になったからね。さすがに、ゆっくりしたいのが本心だよ」「でしょ。さしものアルテッツァ卿でもお疲れだよね。サクッと陛下への報告済ませちゃって、ゆっくりするといいよ」「ありがとう。そうさせてもらうよ」 ノンノとアルテッツァが交わす気心のしれた会話を横目に、カイトが少し後方で遠慮がちに立つストーリアへ歩み寄ると、ストーリアは深々と頭を下げた。「長期にわたるお務め、お疲れ様でございました」「うん。思ったより長くなっちゃったよ、ごめん。ただいま」 カイトの言葉に顔を上げたストーリアが、微かに潤ませた赤褐色の瞳で帰還した主を見つめる。 色素の薄い肌を際立たせるように浮かぶそばかすが愛らしいとカイトはあらためて思った。「屋敷に戻ったら、その、相談があるんだ。お土産もその時に。もうちょっとだけ待っててもらえるかな」「かしこまりました。お待ちしております」 カイトら帰還した筆頭魔道士団の四名を乗せた王室所有の儀装馬車は、衆目を集めながらも緩やかな速度で王宮へと向か
四月二十五日。天候に恵まれた金曜日の昼前。 前日の送別会での盛り上がりを微かに匂わす魔道士たちが、出航の準備を済ませた二隻の汽船が待つ河川港に集まった。 ゲルマニア帝国のアイギス魔道士団に席を置くカレラとクワトロ、及びガリア共和国のシャノワール魔道士団に席を置くファセルとルネボネの四名は、各々の本国へ戻るために一旦ウァティカヌス聖皇国へと向かう汽船に同乗することが先に決まっており、その日程に合わせてカイトらトワゾンドール魔道士団の四名にはミズガルズ王国の王都プログレへと向かう汽船が手配されていた。 統治領を治めるブリタンニア連合王国の筆頭魔道士団である、メーソンリー魔道士団に席を置く新たな駐屯指揮官が赴任するまでの期間はベンガラに留まることとなったアクーラとエランは、共に連合側の部隊を組んだ魔道士たちを見送る形となった。「また会える日を楽しみにしています」 朗らかな笑みを浮かべながら右手を差し出したカレラと、笑顔で応じたカイトが握手を交わす。「はい。出来るなら、戦場ではない平和な機会で」 他国の、特に地理的に離れた国家間の筆頭魔道士団に属する魔道士同士が戦場以外で会うことは、まずあり得ないと知りながらも素直な希望を口にするカイトへ、カレラは笑顔で応えてみせた。「何ともカイト卿らしいですね。そうですね……そうなることを、あたしも願うとしましょう」 カレラが賛意を表したタイミングで二人へ歩み寄ったファセルが、しなやかな所作で右手をカイトの前へ差し出した。「次に会うときまで、更に男を磨いておくのよ」 ファセルの意外な言葉につい破顔したカイトが握手に応じる。「はい。俺なりに努力してみます」「ダメよ。それは出来ない男の返答ってものよ。磨いておきます、ときっちり断言しなくちゃ」「分かりました。磨いておきます」「よろしい」 満足気に頷いたファセルがやわらかな笑みをカイトへ向ける。 別れの挨拶が一段落したタイミングで、機会を見計らっていたアクーラが背後からカイトに抱きついた。「さみしくなりますねえ」 カイトの耳元を吐息で撫でるようにささやくアクーラの、背中で感じる豊かな柔らかさにどぎまぎしながらもカイトは率直な言葉を返した。「はい。俺もさみしいです」 西方列強の魔道士として各々が重責を担うエース格であるカレラ、ファセル、そしてアクーラは